#小説
ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』岸本佐知子訳(白水社) シルバーは海辺の田舎町ソルツの、崖の上に斜めに建った家の中で育った。「人生に斜めに入ってきた」彼女は、人と同じように真っ直ぐには人生を歩めない。 10歳の時に母を亡くし、盲目の灯…
朱川湊人は怪奇物の短編(短編連作)を中心に書いている作家。長編ではSFを執筆。特撮マニアだそうだ。 『赤々煉恋(せきせきれんれん)』は文庫版はこの一月刊行だが、単行本は2006年。収録作は五作。単行本を所有していないので、各編の初出は知らない。…
伊藤整の『小説の認識』に関連して、二葉亭四迷の『浮雲』を再読。 主人公内海文三は没落士族の子弟で、それなりの学問を積み官吏となったが、罷免される。彼の潔癖とプライドが、役所において理不尽な上司に合わせてうまく立ち回るということを許さなかった…
『失われた町』がおもしろかったのと、建築物だというので、読んでみた。結果は、がっかりだった。 「図書館」というのがとにかくいけない。以前読んだ動物園演出の話とそっくりで、何でも知ってる上司に電話で相談するとか、運営者が勝手なことをして失敗す…
犬が好き、というとまず水原紫苑を思い出すのだけれども、松浦理英子も犬好きなのかな? 房恵は犬が大好きで、自分の魂の半分は犬で、犬になりたいと願っている。たまたま知り合った犬好きの女性に惹かれた房恵を見て、悪魔めいた人狼が、犬に変身させてあげ…
この三冊は、それぞれ長篇、連作短編集、短編集である。 『雷の季節の終わりに』はジュブナイルで、少年の季節の変転を描いている。風わいわいという精霊に恒川らしい味があるが、ごく普通のライトノベル風ファンタジーである。『草祭』は不思議なことの起き…
恒川のこれまでに出た作品をまとめ読み中。評価が高いので、期待はずれだったらどうしようかと思ったが、今のところは、ガックリ来てない。大絶賛というほどでもないが、なかなか良かった。 「夜市」は「ゴブリン・マーケット」の変奏曲のような感じ。ヒロイ…
ファンタジーノベル大賞受賞作。 1881年生まれの異能の建築家の人生と、彼が手がけた建築をめぐる物語とが絡み合うように語られていく連作短編集。最後の「忘れ川」で、施主(の妻)と建築家の人生が絡み合う形になっている構成はなかなかのもの。癒やしなど…
2007年のファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。少女の姿の死者の霊(らしい)と親しくなる、というエピソードがあるが、あとはただの小学生時代の回想録。 同時に『ぼくとセイと青空と』を読んだ。こちらは犬と放浪する野生児の話で、ファンタジーではない。…
2007年のファンタジーノベル大賞受賞作。一昨年のか? 時間の感覚がもうなくなっている。 犬を嫌う話なのかなーと思ったが、そうではなく、厭太郎対犬千夜の対決を描いた話、という意味だった。 日本風異世界ファンタジー。とてもちゃんとしたファンタジーで…
この作品は、話中和として語られている両性具有神の挿話を除けば、ファンタスティックなところはなく、そうした枠中話もただの創作として入れ込まれているだけであるため、ファンタジーとは言えない作品である。いわゆる耽美でもない。 まずは出版社の紹介文…
別世界ファンタジー。 ヒロインが素晴らしい。英明とはこういうことを言うのである、というような少女。皇帝の娘なのにそうではないような思考展開で、主人公も、彼女のその名君にふさわしい資質に驚き、彼女に仕える。 物語は単に別世界であるだけの宮廷陰…
この作品については、町が意志を持つというのがわからない、という、設定に対する違和感を表明する書評を読んだきり、どうでもいい作品と放っておいた。 で、今さらながら読んだ。そこそこおもしろいエンターテインメントSFだった。「町」という言葉で表現…
芥川賞候補作の発表年を調査していて、いつも便利に使わせてもらっている「直木賞のすべて」「芥川賞のすべてのようなもの」で、たまたま、石黒達昌「平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに……」の選評を読んだ。その中…
先週はずっと翻訳関連の仕事をしていた。新しい本は読んでいない。 翻訳の校閲で、原文と対照して脱落文などをチェックする、意味の通りにくいところなどをチェックするという仕事。 1911年、マックス・ビアボウム作『ズリイカ・ドブソン』Zuleika Dobson そ…
日本児童文芸家協会賞……朽木祥「彼岸花はきつねのかんざし」 新人賞……久保田香里「氷石」 どちらもファンタジーだが、未読。 朽木祥は、愛らしいことこの上ないかっぱの子供が主人公の「かはたれ」でデビュー。続篇「たそかれ」は一種の音楽ファンタジーでも…
野間文芸賞を受賞した話題作だが、読むのが遅くなった。 「主」の代参で権現様に名刀を奉納に行く途中で、不気味な生物の中から「贋の世界」(この世に似て非なる世界)に入り込んだ(と思った)彦名が、その世界で行き当たりばったりにわがまま勝手に生きて…
高原英理の怪奇幻想短篇集。「夜の夢こそまこと」というタイプの作品が二つあり、また、現実溶解型の、彼の美質が最もよく表れている作品が多い。「グレー・グレー」という唯一既発表のゾンビの純愛話も非常に良かった。都市幻想というタームが大好きな某が…