弘也英明「厭犬伝」

2007年のファンタジーノベル大賞受賞作。一昨年のか? 時間の感覚がもうなくなっている。
犬を嫌う話なのかなーと思ったが、そうではなく、厭太郎対犬千夜の対決を描いた話、という意味だった。
日本風異世界ファンタジー。とてもちゃんとしたファンタジーである。

日本近世風別世界が舞台。桜の木の下には死体が埋まっている、という梶井の言葉を背景に、その木で彫られた仏(死体の思いを移した、精神感応できるロボットのような人形)が存在している。ロボットのファンタジックな語り替え。主人公は、ある不思議な一族から疎まれる存在で、子どもの時に去勢され、少女のように愛らしい顔立ちだが、山中を警備する屈強な若者である。有名だが不正を働いていた(木を得るために人殺しをしてしまう)仏師を逮捕しようとして殺してしまい、おまけにその彫った仏をいただいてしまう。そしてその娘である犬千夜に仇討ちを挑まれる。小型の仏を使うロボット・バトルゲームで戦おうという提案だが、生まれながらの巫女である犬千夜に勝てそうもなく、仲間を得て修行をし……というような展開。それに不思議な一族の陰謀などがからむ。

特に感慨もなく読んだ。普通のエンタメである。きちんとした作品だと思うが、個人的に興味の持てる部分がほとんどなかった。異世界の描写が薄いのかなあ?
それに、ゲーセンの戦いの雰囲気の再現、などという帯を読んでしまうと、もうそれだけで全然食欲が失せてしまう。そんなネタばらしっぽいことをすべきではないだろう。こう言った方が読者が増えるんだろうか。せっかく、それなりの異世界を作り、雰囲気醸成なども頑張ったのに……。
次の作品を書いているのかな? この世界を舞台に、シリーズにもできそうではあるが……。
とりあえず、フォローはしたいという気持ちはあるのだけど、まだまだ積ん読本がたくさんあって、今年の本までは手がなかなか回らない。