三崎亜記『廃墟建築士』

『失われた町』がおもしろかったのと、建築物だというので、読んでみた。結果は、がっかりだった。
「図書館」というのがとにかくいけない。以前読んだ動物園演出の話とそっくりで、何でも知ってる上司に電話で相談するとか、運営者が勝手なことをして失敗するとかいった構造も、ヒロインの悩みのようなものまでそっくりで、辟易。意図的に作ってあるのだとしても、それが四編収録のこの短編集のうちの最長の作品でかなりの部分を占めるというのは、購入した読者をバカにしてはいないか。「ナイトミュージアム」風に図書館が生命を得る夜を描いていると言えるが、「図書館の野性」だの「調教」だの、全然ピンと来ない。本ってやっばりオブジェとは違うんだよね。博物館や美術館とはそこが違う。図書館という場が本に動く力を与えるのだとしても、こんなのは納得できない。
そのほか、七階撤去の話も、寓話としてはいまいちで、ファンタジーとしては全然。廃墟建築士は、ゴシック・リヴィヴァルの頃の廃墟ツアーとか、ピクチャレスクな庭園の造築とか、そうした歴史的背景のことを考えたら、アイディアは自然な感じ。でも、理屈付けがこれでは……。蔵守の話は、なんだか「国体の護持」みたいに見えてしまってぞっとする。とにかく伝統を守らないと悪いことがあるといわんばかり。作者がどういう意図で書いたにせよ、なんとも不愉快な物語であった。