ブリキの女王

サリー・ロックハートの冒険・外伝。
英国最下層の生まれのアデレードが、娼婦時代に知り合ったドイツ地方の小国の王子に身請けされて結婚し、危難に遭いながらも、ジムと小国出身の聡明な少女レベッカの助けによって女王として頑張る……という物語。娼婦が王女になって成功するという荒唐無稽は、物語としては一種の類型であるが、なかなかよくできていておもしろく読める。
一種のルリタニア物と言えるが、ドイツに帰属した小国〜バーデンとかバイエルンといった〜をモデルにしており、改変歴史物のテイストがある。ビスマルクの金庫番であるユダヤ人銀行家ブライヒレーダーの策謀で、小国がドイツ帝国にのみこまれてゆく過程を描いたとも言える。1882年の夏〜冬という設定。
爆弾による暗殺未遂で幕を開けるこの物語は、やたらに人が死ぬ。サリーの冒険シリーズは、これまでもたくさんの人を殺してきたが、今回は特によく死ぬ。しかし、児童文学なので、それがあっさりと描かれていて、子ども向けとしてこれではまずいのでは、という気分になる。ブライヒレーダーの策謀にしても、背景的に言及されているだけなので、子どもにはやや難しいか。
戦争でわらわらと人が死んでいくのを見ながら考える。主人公の一人であるレベッカが、やがて結婚して子どもを作ったとする。男子ならば、ドイツ帝国の兵士として、第一次大戦に従軍したろう。そして……
生き延びても生き延びても、戦争から逃れられない。死の連鎖。
イタリアや日本もそうだったな。