フォーチュン氏の楽園
フォーチュン氏の楽園 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)
- 作者: シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー,横山茂雄,佐々木徹,中和彩子
- 出版社/メーカー: 新人物往来社
- 発売日: 2010/07/24
- メディア: 単行本
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原文対照をした翻訳本が送られてきた。
横山先生が、bk1のインタビューで、「僕の周囲では世界最初のBLではないかと……」とか言っているのがこれだ。
フォーチュンは、数学に挫折して会計の道に進んだ元銀行員。今は退職して宣教師になっている。召命を受けた、と思いこみ、到底改宗者が出せそうもない南の島に赴くが、案の定、島民たちは親切ではあるものの、偶像崇拝者で、キリスト教には関心を示さない。一人の少年だけが改宗めいたそぶりを見せ、フォーチュンと生活を共にし始めるのだが……。
南の島! 褐色の膚のすらっとした少年が腹ばいになって足を蹴り上げるのを見つめる初老の宣教師! 世界最初ではないと思うけど、情緒は少年愛ものに近く、フォーチュンの少年への複雑な思いが焦点になっている。「ヴェニスに死す」より、BLの世界に近いと思う。ウォーナーの時代は同性愛に厳しく、その屈折が微妙な形で出ているのではないかと推測される。ロマンティストでイメージ豊かなフォーチュン氏の、南の楽園での奇妙な振る舞いを読んでもらいたいと思う。