むのたけじ「たいまつ16年」

むのたけじは戦前は朝日新聞記者、戦後は辞職して、故郷の秋田県横手市で週刊新聞『たいまつ』を30年にわたって作り続けた。その16年目に、社説に当たるエッセー「たいまつ」から精選した文章等が収録されている。
以下、引用である。書かれた年をカッコ内に示した。

ビスマルクは「一国の若者を見れば、その国の将来を予言できる」と言ったが、その国のおとなたちが子どもたちのためになにをしているかいないか、それを見れば、予言の的中率はずっと高まるであろう。(1948)
何でも自分に都合よく解釈する。解釈通りの現実が来ないと、悪いのは自分自身ではなくて、自分の外側にある。これは一小島国の古い精神の特徴……(1949)
人々は、変革を望んでいる。しかし、その足音が実際に聞こえてくるとそれを恐れる。(1951)
日本の屋台骨には、いくつもの幻想が古い貝殻のようにこびりついてる。その中でも三つの幻想はぜひえぐりとりたい。(三つとは「日本人は愛国心に富む「日本人は団結心が強い」「日本はアジアの指導者である」)(1952)
石原慎太郎の流行に触れて)日本の若い世代はむしろ健康であり、純情である。……倫理的な説教で彼らを射る者の末路は、太陽を射る者の末路であろう。(1956)
(総選挙後に民主党自由党自由民主党となり、両派社会党が統一社会党となり、この二つで二大政党制をうたったことについて)一政党への失望がそのまま他政党への期待に転化していかない二大政党制なんて、ナンセンスではないか。(1958)

ちょっと息切れ。時代を経て、たくさん変わったところはあり、むのの本の中にももはや古くなってしまったものはたくさんある。しかし変わっていないことも数多い。米軍基地の問題などもそうだ。「社会の進歩に近道や抜け道はない、本通りがあるだけである」とむのは言う。進歩、という概念も今は廃れたが、良い世界にする、という思いがなければ世は荒れるばかりだ。

たいまつ十六年 (岩波現代文庫)

たいまつ十六年 (岩波現代文庫)