歴史的視点

昨日の「大波小波」では、編集者・寺田博の逝去に触れ、その訃報が一面的であると語っていた。そして、文芸界に「歴史的視点がない」と嘆いている。このコラムには共感した。
歴史的視点のなさは、ポストモダン的な古典(スタンダード)否定の思想以後、隆盛(?)となり、文芸史というものをまったく無視した評論や創作活動が、なんの批判にもさらされないという状況になっている。
私自身も近代文芸史に非常に明るいというわけでもなく、反省すべき点は多々あるが、少なくとも過去の作品を考慮せずに現今の作品を検討するということはしていないつもりである。創作家一人一人にとっては、過去の作品のむやみな考慮は害悪にしかならない場合もあろうが、評論では異なるし、また、前衛を自称する者は(いないかもしれないが)、当然、過去の前衛を知悉しているべきであろう。しかるに、現今の文芸はどうだろう。この十年は見られなかった古いものをありがたがる、といったところがないか? 笑止というべき事態になってはいないだろうか。