卑しい肉体

卑しい肉体 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)

卑しい肉体 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)

横山茂雄・佐々木徹監修の《20世紀イギリス小説個性派セレクション》の最終回配本である。
イーヴリン・ウォーの長編第二作だが、これまで邦訳がない。本シリーズ中では、本邦で唯一メジャーな存在であるウォーなので、いわば目玉作品という位置づけ。
「卑しい肉体」とは強烈な言葉だが、聖書からの引用だと聞けば、納得できるだろう。とはいえ、宗教的な小説ではない。
両大戦間の頽廃気分みなぎる小説で、破滅的な内容。この時期にはヘッセだって頽廃なので、言ってみれば、世界的に頽廃の時代だったのだ。それにしても、ウォーは作中で第2次世界大戦を予言しさえしている。ウォーらしいシニカルなユーモアにもあふれているが、笑えたり笑えなかったり。
 倦怠的なムードの中にあっても、ヒロインたちは切なく愛らしい。婚約相手の青年が、有頂天でステップを踏む様を観て、恋したかも知れないと考えるニーナ。どこかピントの外れた若者たちのアイドル・アガサ。
大久保さんの翻訳は、今時の言葉遣いで、「ヤング・ブライト・シングス」の頽廃性をあらわにしている。
若者に就職先がなくて、どうたらこうたらといった会話など、80年前も今も変わらないのだな、と痛烈に思う。映画狂いの大佐とか、映画への投資話とか、モーターレースと行楽のイメージとか、30年代らしさは随所にあるけれども、それでもやっぱり地続きの時代だと思う。