アトリックス・ウルフの呪文書

アトリックス・ウルフの呪文書 (創元推理文庫)

アトリックス・ウルフの呪文書 (創元推理文庫)

偉大な魔法使いアトリックス・ウルフは自分の属する土地が戦禍にさらされていることを知り、戦争を止めようとする。しかし戦争を仕掛けてきたカルデス大公の説得に失敗。王を退散させる恐ろしいげなものを創り出そうとして、過って本当に恐ろしいものを創り出してしまう。
戦はカルデス大公の遁走、攻められていたペルシール王の無残な死に終わる。そして二〇年の月日が流れ、戦の頃に生まれたペルシールの王子(現在の王の弟であり、唯一の跡継ぎ)タリスは、学院で魔法を学んでいた。そこで不思議な呪文書を見つけ、それを携えて故郷に戻ることになる。
一方、魔法に巻き込まれた森の女王の娘サローは、己と言葉を失い、ペルシールの城の鍋磨きとして働く日々だった。サローはタリスに出会い、彼の死を予見するが……。

偉大な魔法使いが、自分の創り出した幻影とその結果に怯えて遁走してしまい、20年後にようやくその決着がつくという物語。マキリップお得意の、魅惑する森の存在が絡んでくる。結構、残酷な話だ。
サロー・パートでは、既読感ありありだったが、それもそのはず、短編集に掲載されていた一篇「灰、木、火」がこのもとのイメージだったのだ。
魔法描写はすばらしいの一言に尽きるけど、物語全体としてはどうだろう。いろいろ傷が目立つ。そういえば我が邦の新進ファンタジスト乾石智子もそんな感じだった。もうちょっと説得力のある構成にしていただきたいものである。