翼の帰る処3

上巻が出たとき、下巻が出たらまとめて買うよ、と言ったら、有里さんが、そんな甘いことを言ってはダメだ、上巻だけでも買って積んでおけ、というので、その助言に従ったが、まさか一年以上も待つことになるとは。
今回は、北嶺とは長年敵対関係にあり、戦争を起こしたばかりの北方の地が主たる舞台。神がいないと言われる北方には、神のごとき力を持つ「現人神」が存在するが、それと関わりを持つという展開である。人の世を去った天の神々、人の世に関わる地上の擬似的神々、天の神に憧れる魔神という構造が徐々に明らかになり、ファンタジーとしての仕掛けを大きく動かし始めている。相変わらず世俗的な話題が多いが、神−恩寵−人という関係を軸にしたファンタジーとしての姿勢は揺るがず、というよりはより強まっている。
しかし神気に打たれて瀕死になるヤエトが、神の器になっても死んじゃったりしないのはなぜななのだ。納得がいかない。というか、ここで神を出す必要性はなかったのではないか。こんなことなら、それまでの布石は何だったのか?という気が、どうしてもしてしまう。
それはともかく、今回はより一層「時間」にスポットが当てられている。特徴的なのは前後の脈絡のない時間(記憶)というものが描かれていることで、最近ジーン・ウルフの『ジールスの新しい太陽』を読んだので、あのシリーズの時間のねじれを否応なく思い出した。錯綜した時間を生きるとは、どこから生まれた発想か。ホワイトの『永遠の王』のマーリンは、未来から過去へと生きているのだったが。