スワロウテイル人工少女販売処

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)

 中二病的なもののオン・パレードな、ライトノベルであった。主人公は揚羽(本当は黒揚羽)という名前の女性型人造人間。出自が複雑で、双子の妹への思い入れ強く、基本的に「アブナイことは私が引き受ける、あなたを守る」といった調子のうざい性格。その同居人の天才科学者が、思春期で脳が止まっちゃったような、非・大人。ちょっとはまともな刑事の弟が、奇妙に自己陶酔的な純愛を10年も続けているのだが、口の利き方も知らないガキ(一応高校生で、成人レベルに達しているという設定)。といった調子で、キャラがどうにも魅力的でない。マクロファージがその正体も含めてちょっとはよかったかな。ただ、確実なこと以外は疑問形でしゃべるという設定なら、校正の要ありだ。
 文章がひどい……というか、ユニークを狙ったけど、数ページ書いたところで挫折して、なし崩し的に普通になったが、しかし結局巧みな文章とは言えない、というようなしろものだった。つまんないルビ振りにも疲れる。中二病だから仕方ない……と寛大にはなれない。小説ではどれだけ言葉が大事なものか、エンタメ作家といえども、充分に考えるべきである。
 しかしまあ、最後までそれなりに読めたので、可としよう。
 全体はミステリーっぽいので、ネタばらしを避けるために多くは触れないが、「ゼイリブ」風に特殊な形で、町に書かれた物語をある団体が共有する、というギミックが使われていて、これはちょっとおもしろいかな。しかし、そのための掘り下げが甘い。なぜなら、これが悩める揚羽の物語だからだ。焦点を二つもった長篇に挑むにはまだ技術力が不足しているのではないか。人工知能の問題も含め、いろんなことを詰め込みすぎて、あるところでは、つまらない会話で延々と背景説明、あるところでは設定から納得しがたい発言や状況説明が出てきたり、あるべき説明が脱けていたり、といった具合で、消化不良感が強い。
 奇をてらわず、もっとエンターテインメントの歴史に敬意をもって接して、かっちりした長篇を書いたらいいのではないのか。ていうか、少なくとも二冊書けたろ、これで。