不審な音

 夜、長坂の家の南東の隅から、がりがりという音がする。スピーカーの後ろだと連れあいが言うが、木の中から木を囓っているような音だ。ネズミじゃないよね?と連れ合いは言う。これは昆虫だなと思い、明るくなってから、外に回ってみる。一階の壁には異常が見あたらない。南東のロフトはもともと客室だったが、今は私の部屋になっている。そこの南東隅を見てみるが、やはり何にもない。ベランダに回ってみると、木の隙間に元気よく蜂が出入りしているではないか。なんだ、スズメバチだったのか。やっぱりね、という感じもあったが、スズメバチが、あんな大きな音を立てて木を囓るのか、とも驚いた。見上げると、軒下にも小さなスズメバチの巣があった。もみの木にはアシナガバチも巣を作っている。
 ああ、今年は蜂がいっぱいだ。
 連れ合いの言うには、大きな木が切られて、自然の中の蜂の住み処が奪われているからだそうだ。
 田舎で暮らしていると、植物の生長が凄まじく、昆虫はひたすら元気なのが分かる。人類と大型動物の絶滅後、たとえ核による壊滅であっても、植物と昆虫だけは元旺盛に繁殖していくにちがいない。