呪い

私が高く評価する作品は、世間では評価されることが少ない。
という話から、子供とこのようなバカ話になった。

それは実は、〈私〉がこの作品は素晴らしいと思うと、作品の世間的な価値が下がるという魔法(のろい)がかかっているからなのである。(なんとまあ)
そこで、〈私〉は文学的世界の質の向上のため、大いなる自己犠牲を発揮し、素晴らしいと思う作品を素晴らしいと思わないように努力する。素晴らしいと感じると呪いが発動するわけだから、つまらない作品を素晴らしいと思う感性を改めて育て直さねばならない。
いつしか、その努力が実を結ぶと、つまらない作品を素晴らしいと思う感性に変容しているわけだから、かつての素晴らしい作品はつまらないものになっている。果たして自分のしていることが文学のためになると言えるのか、もはや〈私〉にはわからない。

絶望的な物語の種だ。
しかし、本当にこんな呪いがあったとしたら(あるわけはないが)、もう本を読みたいとは思わないだろう。
本を読むというような話ではなく、もっと一般的な話に拡大すれば、こういうパターンの呪いの話は、どこかのファンタジーにあるのではないか、という気もする。例えば、愛する女性を救うためには、その女性のことを忘れなくてはならないとか憎むようにならねばならないとか。ちょっとぬるいけど。ライトノベルにだってありそうだ。

さて、小さな仕事に追われて二月も半ばを過ぎた。
あまりに日々が早く過ぎるので、春までに果たさねばならない諸々の義理が、間に合うのか、と少し不安になっている。