陸に上がった軍艦

 新藤兼人の戦争体験を映像化したものと、新藤の語りを組み合わせたドキュメンタリー。
 海軍に入った新藤は、宝塚の海軍の予科練の宿舎で雑益をしていたのだが、宝塚にあっても軍艦での行動様式を守るということで、このタイトルなのである。
 軍人精神注入棒とか、誰が考えたのだろうか。ナンセンスの羅列とも言うべき軍隊生活と無意味な死に、怒りを通り越す。
 新藤は、人間の生というものは、その人や周囲の人にとって、文字通りにかけがえのないもので、その人の死は、本人も周囲も破壊してしまう。だが、作戦という見地から見ると、ただの数字になってしまうのであり、戦争というのはそういうものだ、と語る。
 人命は地球よりも重い、ということはこういうことを言うのであって、人間の命が一般的に尊いということではない、と私は思う。一般論や数字に還元したとたんに、人間の命は、どうでもよいものになってしまうのだ。
 9・11テロで多くの人が亡くなった。数で言えば、その後の米軍の爆撃で死んだアラブ人の方がはるかに多いし、イラク戦争で死んだ米兵の数もそれを超えた。というわけで、こうして犠牲者を上回る死者を出して、アメリカ国民は、あるいは遺族は満足だろうか? そんなことがあるわけはないだろう。不条理な死は、そうしたことでは償われない。