読了本

タニス・リー『水底の仮面』
 もう一つのヴェニスを舞台にしたファンタジー。一話完結タイプのシリーズのようで、これはラヴ・ロマンス。ミステリー風になっていて、主人公が、「そうだったのか」と納得したりする場面が後半部にあるが、そのはるか手前で主人公はそのからくりを理解しているように見えるのだが?……少なくとも、読者は理解して読み進めると思うので、何を今更、と思うだろう。ファウルズ『魔術師』タイプの仕掛けのある作品だが、最初に謎がわかってしまう上に、構造(人物造形)が単純であるため、そっちの方面での効果は薄く、結局のところ、ただのエンターテインメントと言えるだろう。つまらなくはない。
梶尾真治『時の風に吹かれて』
 短編集。『異形コレクション』などの作品を含む。篠田真由美螺鈿の小箱』、加門七海『美しい家』なども最近読んだが、どれも『異形コレクション』の短篇を収録しており、このシリーズが雑誌の役目を果たしているのだということがよくわかる。
坂東眞砂子『鬼に喰われた女』
 『今昔物語』をベースにした女の怪奇物語集。10話を収録する。
 装幀が、まるで、お金がないので、フォトショでいろいろ誤魔化して私が作った、みたいなものになっていて、自費出版本の出版社の本のようで、集英社の本ではないみたい。
倉阪鬼一郎『泉』
 既視感があるので、もしかして以前に読んであったのかも知れない。
皆川博子『絵小説』『伯林蝋人形館』
 前者は宇野亜喜良とのコラボの短編集。多田智満子やミショーの詩などが使われている。ほぼ怪奇幻想物。
 後者はいわゆるロスト・ジェネレーションの青年らの虚無を、ドイツを舞台に描いたもので、趣向を凝らした連作短編集となっているが、『聖餐城』と同じく、ほぼ怪奇幻想物ではない。
青木淳悟『四十日と四十夜のメルヘン』
 二作を収録。「クレーター」は幻想小説だろうが、流し方がちょっとうまくいってないような。表題作もとても感じが良いメタ・フィクションだが、やはりちょっと中途半端なような。同じような終り方なのも、気になる。センスはある人という印象だが、それ以上にいくのかどうかは、わからない。ちゃんと編集者に面倒見てもらっているのかな。たまの歌詞が使われているが、著作権許諾の注意書きが見あたらず(見落としているだけ?)、しばし悩む。
宮部みゆきICO
 ゲームのノヴェライゼーション。説明につぐ説明で、とにかくつまらなく、物語上の整合性に欠ける。『ブレイヴ・ストーリー』なんかもそうだったけど。なんでいきなりハッピーエンドにしないといけないのだ? これが売れる秘訣か? しかもオメラス同様の説教が入っているし。これも売れる秘訣か? 数十年に一度、たった一人の犠牲者が出るだけで世界が破滅から救われるなら、志願者はたくさんいるのでは、と私は思ってしまう。ファンタジーの才能がないといことは明らかだが、勝てば官軍なのはいずこも同じ。

水底の仮面―ヴェヌスの秘録〈1〉 (ヴェヌスの秘録 1)

水底の仮面―ヴェヌスの秘録〈1〉 (ヴェヌスの秘録 1)

時の風に吹かれて

時の風に吹かれて

螺鈿の小箱

螺鈿の小箱

美しい家 (光文社文庫)

美しい家 (光文社文庫)

鬼に喰われた女 今昔千年物語

鬼に喰われた女 今昔千年物語

泉

絵小説

絵小説

伯林蝋人形館

伯林蝋人形館

四十日と四十夜のメルヘン

四十日と四十夜のメルヘン

ICO  -霧の城-

ICO -霧の城-