黎明の書

二ヶ月連続刊行で一気に読まれる方もいるだろうと思うので、核心には触れずに筆を進める。

 聖都のやり手商人ド・ラペの世話になったのも束の間、都は「堕天使」めいた貴種・イリヤのせいで混乱の中に突き落とされる。
 前巻より登場したナタナエルをはじめ、戦乱に巻き込まれていくさまざまな人々の背景、そして混乱の元凶であるイリヤの出自などを描き、おもむきは大河絵巻風。物語としては混乱と破壊が起きる、というだけの巻なので、暴動を含め。いろいろな局面での、さまざまな形の戦いが描かれ、とにかくたくさんの人(貴種も)が死ぬ。
 その中で我らが主人公たちはわずかずつ成長していき、イオアンもだいぶ大人になる。ラウルは特別な存在であることがあからさまになっていくが……。
 そして外伝のファンは喜べ、今後は完全に話が合流して、アイーシャは大活躍である。
 五巻ではようやく上王の都までたどりつき、宮廷陰謀劇が炸裂。物語としてはこちらの方がおもしろいだろう。

 どちらの巻にも権力のある女性が登場し、貫禄を見せる。
 そして少年たちの友情と成長が無理なく描かれる。
 篠田真由美のおはこ。

 このシリーズは、いろいろな背景を詰め込んでいる感じはするが、全体として世界観に無理がなく、良い意味で海外ファンタジイのような趣がある。
 日本の出版事情は、『七王国の玉座』あるいは『王たちの道』のごときものを邦人作家に許容しないであろうが、そのような中で健闘していると感じる。
 
 SFにならずに終わってくれと願う。