日本文化の基本形○△□

仏文学と比較神話学の篠田知和基先生の、日本と日本人への呪詛に満ちた(笑)本。
日本の基本形は四角形である、と主張し、衣食住すべてに四角を見出し、丸い欧米(というよりフランスを中心とするヨーロッパ)と対比的に語る。
欧米人は、日本人を粗野で下品で猿のような種族とみなしているのだそうだ。群れればうるさいが、一人では発言もできない、食事のマナーもなってないし、会話も洗練されてない。
技術世界一とか手先が器用とかうぬぼれているが、みんな勘違いに過ぎない。などなど。
そうした主張に否やを唱えたいわけではない。先生の立論はおおざっぱに過ぎるが、ざっくりとしたところを狙っているので、どうしてもそうなりがちなのは仕方がない。ただ、まったくの事実誤認があって、勇み足と感じた。
風呂と棺の形が四角い、という主張だ。風呂桶、棺桶、というくらいで、それは桶の形が中世以降主流なのである。甕棺からいきなり現代に飛んでしまって、その間を無視している。樽型の座棺で土葬にするのがかなり長年の風習で、火葬が主流になって、四角い箱に変わったのだ。ヒノキの風呂桶も、基本は丸型であろう。風呂には詳しくないので不確かだが、四角は近代の産物なのではないだろうか。世界的に水の容れ物は丸いのであって、日本だって例外ではない。(もちろん部分的な例外はある)
ともあれ、全体の論調としては、日本は貧しく文化がない、と言いたいようでもある。
地べたばかりを見て空を見ないとか、四角四面でがんじがらめとか……島国で、平地も少ないし、さらに近代的には資源も少ない国であるから、貧しくても仕方ないのだが。
そんな愚痴のようなことより、なぜ四角なのか、もうちょっと比較文化的にきちんと考察してもよかったのではないか。そこのところが緻密でないので、日本は四角い、世界的に見ても珍しい、という発見しかないように見えてしまう。
想像力の原風景を問うような一連の仕事を主宰している先生なのだから、もっとそういう形での論考であってほしかった。