『日本幻想作家事典』に関するあれこれ

 営業の都合上、マイナスなことは書けないので(把握している誤植情報も)、自画自賛的言辞を順次書き連ねる。

 事典は、本篇と附録1・漫画、附録2・映像の三つの部分から成るが、まずはマンガ部分について述べたい。なお、事典では「漫画」の表記としているが、これは東雅夫が「マンガ」「まんが」には違和感がある、「ショーセツ」というような感覚があるから「漫画」にしたい、と述べたのを尊重したためである。現実には「日本マンガ学会」という学会があるぐらいなので、「マンガ」を「ショーセツ」と感じる感覚には私はついていけないが、表記はまあ、統一さえすればどうでもいいと思い、その表記とした。あまり深い意味はない。字数の節約にはなった。ちなみに、東雅夫が附録のページに関わったのはこの点のみである。
 「怪奇幻想漫画家事典」の編集責任、誤植等の紙面についての責任は、すべて石堂藍にある。制作も石堂藍なので、校正が反映されなかった等、だいたい拙いところは石堂藍の責任なのである。 

 もともと、事典は『日本幻想作家名鑑』の増補版である。本篇だけで旧来の2.5倍(割愛した分を含めるとほとんど三倍)にもなるとは思っていなかったので、国書刊行会の編集長の礒崎さんから、差別化のために附録を付けて下さいという要請があった時、漫画、映像、ゲームの三点の増補を提案した。残念ながらゲームは実現に至らなかったのだが(どこかでリトライしたいと思っている)、残りの二点は実現させることができた。で、その漫画である。

 もともとマンガを増補したいな、という気持ちになったのは、Wikipediaを見ていた時、ファンタジー・マンガの最初が「ピグマリオ」だと書かれていたのを見てぶったまげたからである。え? 「正チャンの冒険」とまでは期待しないが、恐ろしく有名な「リボンの騎士」も「銀の花びら」も無視なのか? ファンタジーの認識はどうなっているのだ? それともマンガ自体をよく知らないのか? ともかくも、今はもう改善されたかもしれないが、その頃(四年前)のリストはひどく無知に思える代物で、書いた人は若いんだろうなとは思ったもの、このままではいかん、と感じたからであった。しかし私にしてもマンガの知識が豊かとはお世辞にも言い難く、ついでに勉強しよう、という程度の気持ちで始めたのだった。
 まず、第一に声をかけたのが有里朱美さん。『幻想文学』の読者でマンガをはじめとするサブカルに詳しく、リスト作りの達人。その頃、何かリストが作りたいなー、てなことをミクシイで書いていたのを見て、ここは彼女に頼んじゃおう、と思ったのであった。で、半年ぐらいをかけてリストを作ってもらったのだった。
 ということで、有里さん語録。
 ○怪奇幻想マンガのリストといいう限定付きだからそう大事にはならないだろう、と思って始めたが、「ドラクエ」が出た辺りからファンタジーの量が飛躍的に増え、網羅するなんてとんでもない、という数になってしまった。とてもとても大変だった。
 ○こんなこと(怪奇幻想マンガだけを集めること)をするのは他には誰もいない(笑)。
 ○SFとの線引きが難しく、悩ましかった。

 有里さんには本当に感謝している。増補版のためのはてなグループまでつくってもらってしまった。
 リストがだいたいできたところで、有里さんに、執筆の相談をした。私が群小作家は書いてもいいのだが、大御所、少女マンガなら二十四年組、少年マンガなら手塚・石ノ森・楳図・水木といったところは誰かに書いてもらいたい(自分じゃ怖くて書けない)ということで、誰か当てはないかと。そこで紹介して貰ったのが〈図書の家〉。少女マンガの研究グループである。(メンバーは5人で小西優里、卯月もよ、岸田志野、天野章生、城野ふさみ各氏)
 このリーダーの小西優里さんが、少女マンガ研究について非常に強い熱意をお持ちの上に、超絶的に良い人で、少女マンガをほとんど引き受けてくれた。ああ、助かった。
 有里さんにもよく読んでいるCLAMPや、またファンタジー・少女マンガの起点として重要な松下伊知夫などについて書いてもらった。
 少年マンガの執筆については、『幻想文学』の寄稿者でもあった久留賢治さんに打診した。とりあえず、水木しげるなど、ホームページで扱っているものは書いてもらえるのではないかということで。快く引き受けてもらえたのだが、手塚などはもっと適任の人を紹介するということで倉田わたるさんを紹介して下さった。倉田さんは手塚、吾妻など、重要な作家を追跡しておられる方で、『幻想文学』も読んだことがあるという方であった。倉田さんは、ものすごく書ける人だった……。久留さんと倉田さんにはただ感謝するのみである。
 それからさらに佐藤弓生さんに、別ルートで白峰彩さん(山岸凉子フリークにしてマンガ関連の様々な活動に関与)を紹介してもらった。彼女が、戦前と貸本が手薄だし、楳図だったら想田四氏がいるではないか、と言うので、白峰さん経由で想田さんにも参加していただいた。想田さんは小西さんとも実は親しい。
 これらの主要メンバーで有里さんのリストを検討し、取り上げる作家を取捨選択した。
 執筆陣としてはこのほか、想田さんを通じて、日本でもトップクラスの絵物語の蒐集家・高橋正彦さんと、貸本に詳しい成瀬正祐さん(なんと犬山城の最後の城主の息子さん!)に参加していただいた。
 ほかにやはり白峰さんの紹介で、三谷薫氏と誘蛾灯氏にご執筆いただいている。
 そして私が残りを執筆することにしたのだが、ここでも挫折し、長男の小学校以来の親友で、やおいマンガの研究を課題にしている真栄田卓君に助勢をお願いした。彼には、やおい系マンガの解説などを書く時に本を貸してもらったり、レクチャーしてもらったりしていたのだ。
 結局何となく執筆陣が広がり、結果として、マンガのページは恐ろしく充実することになった。データの詳しさや内容の詳しさなどは本篇を軽く凌ぐ。人数を限定し、重要な作家に絞り、特に近年の多くのファンタジー作品やホラーブーム時代のホラー作品にはあまり重きを置かないという形にしたためで、半網羅のようなことを目指せば、また違う形にはなったと思う。
 マンガに関しては、この部分のためだけにでも、この値段は惜しくないというぐらいのものである。これで、マンガ家の賛同が得られて絵も掲載できたら、増補して独立させてもいいと思う。
 とにかく、多くの人に見てもらいたい。
 昨今、マンガ図書館のことなども新聞で取り上げられていたりして、いろいろ話題は豊富だけれども、今回の作業を通じて分かったことは、マンガ研究はまだまだこれからということだ。
 長くなったので、続きはまた明日。